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『必勝歌』(1945) [レビューなど]

有名監督を召集して作らせたオムニバス形式のプロパガンダ作品。大雑把に括るなら「戦時下ちょっとイイ話」集だが、善し悪しの基準が人倫を超越した特攻礼賛作品である。戦死した特攻隊員の遺族を軍が酒席でもてなし、「はぁ~めでたいめでたい♪」と音頭を取るに至っては、絶句を通り越して吐き気を催す。子どもが頻繁に登場するが、大人は誰もが遠回しに「死ね」と諭している。公開時はほぼ壊滅していた戦艦が鈴なりだったり、カラ元気ゆえのファンタジーも悲しい。日本人が当時の狂信と思い上がりを忘れないための遺産である。資料的価値高し。(☆☆☆)



ここ最近、戦地で機関車を運転する「機関特業兵」を育て上げる過程を描いた『指導物語』、木下恵介が軍の要請で作ったものの内容は明らかな反戦映画『陸軍』など、立て続けにプロパガンダ映画を観ています。
その中でもぶっちぎりで発狂しており、無気力な笑いを誘うのが本作です。
なんでも近代美術館フィルムセンターの解説によると「情報局が募集した愛国歌の一等当選となった「必勝歌」を基に」した作品らしいです。
へー。
1945年の2月公開なんですね。
硫黄島の攻防戦の真っ只中であり、なんともすごい時期です。
ちなみに翌月には東京大空襲ですね。(前年末から東京はもう空襲されていましたが)

どこか南方と思われる塹壕の中で兵士たちが故郷に思いを馳せる、というシーンから始まるのですが、なぜかみんな息が白くなってます。
2月の公開にあわせていくつかのエピソードを同時進行で撮影したらしく、どこでもみんな息が白かったりします。
小学生が元気良く相撲をとりまくるシーンや北朝鮮がやってそうな少女歌劇団の群舞シーンなど、妙にちぐはぐな映像も挿入されていて統一感はありません。
監督は、津川雅彦の叔父さんにあたる早撮りで鳴らした名監督マキノ正博(雅弘)、後の世界的巨匠溝口健二ら、ほかに田坂具隆、清水宏といったすごい面々です。
特に溝口は不自由な環境下でお見合いに臨み、相手の出征を知ってなお悲壮な覚悟をもって結婚を望む女性のエピソードを担当したと思われます。
ちなみに、その女性を演じているのはずーっと後で市川崑作品の常連となり『犬神家の一族』で松子役を演じた高峰三枝子です。

他には飛行機好きが高じて父親に無断で少年兵に志願し、父親から叱責されるかと思いきや「お国のために死んで来い!」と力強く激励される少年は、まだ「沢村アキオ」を名乗っていた子役時代の長門裕之。
ちなみに、このことは斜め前に座っていたおじいさんが上映中に、
「ありゃ、長門裕之だ」
とおっしゃいまして、
「ちょっと静かにしてくれませんかねえ!」
と誰かから窘められていました(笑)
彼のおばに当たる沢村貞子も別のエピソードで出演しています。

本作の内容についてあれこれ言うよりも、本作の中で印象に残った台詞をいくつか紹介します。
「お前の兄は飛行機で体当たりした。日本国民みんなが体当たりの気持ちで事にあたれば勝てる!」
「お前、なぜ俺に無断で少年兵に志願した?俺が反対するとでも思ったのか?行ってこい!そしてお国のために立派に死んでこい!」
「~君は酒が強くて。飛行機の操縦は…そんなに上手くありませんでしたが肝が据わっていました。『俺は腕じゃない。腹で飛ぶんだ』と言っておられました」
もうこの頃になると、上下の別なく日本人の精神状態がいい感じで煮詰まっていたことがわかります。
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bakenoko

特攻
レイテ沖海戦 1944年10月23日~25日
必勝歌 公開 1945年2月22日
レイテ沖海戦で初めて陸海軍とも組織的に特攻が行われました.それを受けて製作された映画だと思われます.

雪国
一生懸命家の手伝いをしている子供に、『お前は身体が弱いから薬を飲んで、明日の仕事に差し支えないように早く休め』
と親が勧める.
雪で列車が不通になった知らせが来た.子供が出かけるというと、『お前は体が弱いから無理だ.身体を大切にしろ』と言い、父親は除雪作業に出かけて行った.

病院船の沈没
この話、敵の戦闘機が病院船を攻撃した出来事で、日本の戦争行為を正当化する話だと思ったけれど、そうではないようだ.
傷病兵が看護婦達に『自分達より貴方たちが逃げなさい』と言って、ボートに乗り移ることを拒んだ.
看護婦達は制服に着替え『自分達の職務を全うさせてください』と、傷病兵達に訴えた.

妹は招集が来た兵士のもとへ嫁ぐという.姉は戦地の夫へ手紙を書いた.
『.....まだ子供だと思っていた信江ちゃんが、しっかりした考えを持った.....それでは、お身体大切に』

仕事帰りの工員、酔っ払いのようだけど、電車に乗り合わせた人が『身体を大切にして下さい』と言って席を譲ってくれた.

航空兵になりたい子供に、『お前も立派に死んでこい』と、父親が言ったけれど、ふざけた言葉に受け取られる言い方だった.

『立派に死んでこい』が特攻ではない.
国民の皆が身体を大切にして、それぞれの職場で自分の仕事を完うすること、それが国民全てが特攻することであり、国を守ることだと、この映画ははっきりと言っている.

爆弾を積んだ飛行機で敵艦に体当たりすることが、航空兵の職務を完うすることかどうか?.
特攻という行為を真正面から捕らえて、人それぞれに考えさせるように描いた、見事な作品だと思います.

芙蓉部隊と言う、特攻を拒否した航空隊がありました.
この部隊は特攻の代わりに、多くの迎撃任務を行い、多くの敵機と交戦した結果、特攻を行った部隊よりも多くの犠牲者を出しました.
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戦争に反対する映画ではありませんが、特攻に反対する映画なのです.

隣組の組長が防火水槽の氷を割ったり、防空壕の出来具合を確かめるのは、職務を完うする姿.
学徒動員の子供が、軍需工場で鉢巻きを締めて、さあ頑張るぞ.女の子が工作機械を操っている.職務を完うする姿.

それに対するのは、特攻で死んだ兵士の遺族を集めた宴会.
『おめでとうございます』.....人が死んでめでたいわけがない.

病院船の看護婦の話は、職務を完うするということは、生きることなのか?、死ぬことなのか?、真剣に考えさせる出来事でした.
もしこの出来事が、きちんと映像で描かれていたならば、芸術作品として世界的評価を受けることが出来る作品になったと思われます.

by bakenoko (2019-03-12 20:36) 

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