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『ゴースト もう一度抱きしめたい』評(ネタバレ上等) [レビューなど]

ダメ映画を期待して観にいって、期待通りだったのですが、実はなんというか、語る気が起きません。
リメイクとしてはかなりネタ元に忠実な作りですが「手堅い」とはならず、どこまでも「陳腐」な印象です。
かといって「ふざけるな!」「金返せ!」などとリアクションを起こすこと自体がどうでも良くなってきます。
この無気力はいったいどこから来るのか?この根っこはけっこう深いのではないのか?
そして、その理由にはすぐ思い至りました。
この主人公にうまく感情移入できないのです。
松嶋菜々子が演じるのは、高層ビルに小綺麗なオフィスを構えるけっこうな会社の社長ですが、自分の誕生パーティー酔っ払った挙げ句、夜の噴水で出会った陶芸家の家に上がり込んでそのまま就寝、素面に戻った朝に彼の横っ面を張り飛ばして出てきます。
これが、妙にいやらしい格好なんですね。まー、パーティーの装束ならそれもいいでしょうが、こいつはこのままテレビのインタビューを受け、新宿や渋谷の街頭モニターに映し出されます。
さらにその合コンルックのまま出社して、テキパキと指示を出したりしてます。
…こういう人、どう思います?
思慮も分別もないくせに、馬力だけは人一倍で、周囲の保護欲を掻き立てては、その善意に無自覚に依存したまま、人の上に立ちたがる人。
こういう人が不幸な目にあったからって、同情する気になれますかね。

そもそもネタ元の『ゴースト ニューヨークの幻』でデミ・ムーア(当時の)が演じた陶芸家の女の子は、どちらかといえば甘えん坊で世間知らずで、主人公ならずとも「しょうがねぇな」と舌打ち混じりに手を差し伸べたくなるようなキャラでした。
だからこそ主人公は、心配でろくすっぽ成仏もできなかったわけです。
そんな頼りない女の子が、出会いや試練を経て、人の悪意と善意を知り、主人公の深い愛によって自信を得ることで、ひとりの人間として成長する。
『ゴースト ニューヨークの幻』そんな物語でもあるわけです。
男女の役柄が逆になった今作では、残された陶芸家は韓国人で日本語が不自由とはいえ、なかなかのしっかり者です。かつマッチョ。
オリジナルと異なり、生死を隔てたカップルに頼る頼られるといった力関係の差はありません。
だからこの女社長、死んでもなお高飛車に見えるんですね。さも当然のように人に頼る。樹木希林演じる霊媒師に無理を言う。傍目にもこの女社長は幽霊になってなお人間的成長が伺えません。
というのも、オリジナルの主人公は二人の悪漢がか弱い恋人を襲うのを阻止するわけで、そりゃ観ている方も応援したくもなります。
しかしこのリメイクでは、悪漢は親友(♀)とやくざ者とスケールダウンしており、しかもこいつより陶芸家の方が強そうです。「恋人を危機から救いたい!」とは思っても「守りたい!」とは思えないのです。
キャラクター設定の時点で既に明後日の方向を向いていますし、この作品を企画した人たちがオリジナルに愛着を持ち、きちんと理解していたとはとても思えません。

このように設定からして既に甘さが伺える本作は、随所に緩みが見られます。
まず主人公の親友、同僚とかならいざ知らず、真っ先に社長にばれるような使い込みしてんじゃねぇよ!アホか!
彼女曰く、女社長を指して「彼女とは大学以来のつきあいだけど、その頃からしっかりしてた。私は彼女の引き立て役」なんて言ってましたが、一般的な見地から判定するに、程度の差はあれどちらも馬鹿者です。
わざわざ韓国から来て、こんな連中のしょうもないトラブルに巻き込まれた陶芸家が気の毒でなりません。
ついでに便利屋。仕事が荒っぽい割には何故か前科無し。
終盤で陶芸家を武蔵小山と思われる商店街の衆人環視の中で襲います。絶対警察来ますからw
アホか!
さらにさらに、刑事が二人出てくるんですが、こいつらが揃いも揃って無能です。
菜々子タンが死んでから陶芸家宅を訪れ、「あんた、陶芸だけで食っていけるの?遺産目当てで殺したんじゃない?」などと単刀直入に尋ねます。
確かに自活できているかは気になるところではありますが、本人を前にどうこう言う前に、まず自分達で調べろよ!これじゃ単なる言いがかりです。
つまり、メインキャストが大抵バカなんですな。いや、オリジナルを見直せば、案外こんな連中だったのかもしれませんが、少なくとも気にはなりませんでした。
樹木希林演じる霊媒師は例外で、コミカルな性格の割にもっとも常識を弁えているように思えました。演技の安定感もあって、この人が出ているシーンだけはかっちり観ることが出来ました。
じゃあ、他の部分は?
おしなべて冗長です。
もう何から何までダラダラダラダラ。
ついでにしょっちゅう韓国語が混じるので、たどたどしさに拍車がかかります。
また登場人物達は心情をそのまま口に出してくれるので、だいたいのシーンは目を閉じていても差し支えありませんでした。
テレビと違って映画では副音声を入れられませんから、そのへんを配慮してくれたのかもしれませんね。
あと、盛り上げ所はだいたい顔アップ。漫研部員の習作マンガじゃないんだから。
で、物を掴めなかったり壁をすり抜けたり、という特殊効果が『ゴースト ニューヨークの幻』と変わりません。何年たってんだよ!その辺VFXの見せ場だろうが!

ここらで整理しましょう。
・キャラクター設定が根本的に間違い。
・観る側の感覚を無視した稚拙な演出。
さらに、許せない、というか笑い所となってしまっている見過ごせないシーンがあります。
『ゴースト ニューヨークの幻』といえば、セットで思い浮かぶのはテーマ曲の「アンチェインド・メロディー」。
今回も印象的なシーンで2度使われますが、なーんか英語の発音が辿々しい。ネイティブじゃないので妙に気になっちゃうんですが、よく聴けば平井堅じゃねえか!
こういうところでオリジナルを使うんだよ!もー!台無し!w
ここに本作の陳腐さが凝縮されていると言えるでしょう。

そもそも、こんな企画を日本映画がやるからこんな出勤前の下痢のような緩みきったテイストになってしまうんであって、いっそ韓国に作ってもらって、松嶋菜々子だけが日本人で出演したほうが、まだマシな出来になったと思われます。
なまじ忠実にリメイクしてしまっただけに、違っている部分の方が悪目立ちしています。
菜々子タンにスキルを伝授する幽霊(オリジナルでは地下鉄の駅にいる老人)は病院の少女になっていますが、これが妙に世慣れてて気持ち悪い。とか。
あとだいたい、日韓共同という作り手の狙いが浅知恵だと思われたらこの作品、おしまいでしょう。ていうか、いったいどこを狙ったんだどこをw
テレビドラマから時間的制約を取り払ったような、切れの悪い便のような映画はもうたくさんです。
今回の戦犯局は日本テレビでした。なんだかなー。
誰が得するのかわからない、どんな人たちをターゲットに作られたのかさっぱりわからない映画でした。
ちなみに劇場で鑑賞していたのは、自分を含めて4人でした。合掌。
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