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『コンテイジョン』(若干ネタバレ有り) [レビューなど]

 今回は珍しく、公開中の映画のレビューなど。


 香港から出張の帰り、ちょっぴり不倫も楽しんで帰宅したキャリアウーマン(グウィネス・パルトロワ)。あらやだ咳が止まらない…。発熱!痙攣!入院!死亡!
 病院で途方に暮れる旦那(マット・デイモン)だが、その頃家では風邪気味だった息子も同様の症状で死んでいた。
 香港で、ロンドンで、東京で…死者が発生。強い感染力と高い死亡率を持った未知のウィルスは世界的感染爆発(パンデミック)の様相を呈し…。


 はい。「オーシャンズ」シリーズのスティーブン・ソダーバーグ監督の新作は豪華キャストで送るアウトブレイクものです。
 CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の偉い人にローレンス・フィッシュバーン、その部下の医師にケイト・ウィンスレット、ウィルスの発生源を追跡するWHOの疫学者にマリオン・コティヤール、ネットで政府発表に異を唱えて煽動者となるフリージャーナリストにジュード・ロウ。
 我が国では震災に伴う原発事故以降、とりたてて深刻なパニックにならない不思議さから誰もが顔を見合わせたばかりですが、本作では逃げ場のないウィルス禍による社会の荒廃も描いております。
 学生時代に『ホット・ゾーン』を読んで以降、にわか感染症ファンになってしまった自分としては俄然ストライクな内容であります。(その割に『アウトブレイク』を観ていないのはここだけの秘密)
 監督はじめスタッフは専門家の意見も良く聞いて、かなり入念に下調べをしたようで、野次馬的には不自然な部分はほとんど感じられませんでした。
 咳と接触、口元と手先にピントを合わせるナーバスなショットが観る者の不安を煽ります。ああもう、上手いなあ。
 また、字幕を担当した方もも戸田奈津子のような常識外れではないので、ウィルスと細菌を混同するようなこともなく、ストレスを感じることはありませんでした。
 
 娯楽作品というよりシミュレーションといった色の強い展開でして、これはつまり感染症の世界的流行という現象は、殊更わざとらしいフィクションを交えなくても十分見応えがある、ということではないかと。このあたり、「チェ2部作」で見られたような、寡黙で手堅くも切れ味の鋭いソダーバーグ監督の持ち味と力量が発揮されており、静かな映像からは煽情よりも凄味が滲み出していました。
 これは豪華キャストにスター性が求められない脚本でもあり、このあたりマット・デイモン(おっさん体型おっさん演技もバッチリ)やグウィネスたん(彼女の痙攣演技はファン必見!その後さらに凄いシーンも…)やケイト・ウィンスレット(いい女優さんになったなあ)といった偏差値高めの役者さんが支持したであろう事は想像に難くありません。
 誰も超人的な活躍をせず、誰もがその時のベストを尽くす。誰とは言いませんがサクッと死んじゃったりします。でもそこがいい。

 猖獗を極める感染症を前に、我が身を省みず未曾有の敵に立ち向かう医療関係者の姿はこの作品の見所であります。
 メインキャストが様々な理由で次々に退場していくのですが、後半のメインキャラになるCDCの研究員(ジェニファー・イーリー)が有望なワクチンを見付け、治験や認証のタイムロスをすっ飛ばすべく自ら被験者となり、自らも感染してしまった医師の父親に会いに行く場面。
 ワクチンにはどんな副作用があるかもしれず、父親へも覚悟をもって会ったのかもしれません。しかしここで彼女は誇りと高揚感に満ちた、実に満足げな表情を浮かべるのですね。ベストを尽くしたもののみが知る達成感。ここだけでも、スタッフが予備調査の段階で実際の研究者たちを前に感じたという尊敬が表れていると思いました。
 ここ以外にも損得じゃなく、胸の底から自然に沸き出すような幾通りもの善意がさばさばと描かれます。
 これらの愁嘆場を敢えて愁嘆場にしないクールさがいい。

 一方に気高い登場人物がいるのなら、もう一方には下衆がいる、これは作劇の基本ですね。
 それがブログでデマを飛ばし、特効薬を喧伝し、人心の荒廃につけ込んで銭と名声ををかすめ取るフリージャーナリスト。明らかに不徳の方向にベストを尽くしていますw
 この度の原発事故後にもいましたね。専門知識を利用して、ホントと嘘をバランスよく配合して、極論に飛びつこうとする大衆心理の上で器用に踊ってた(踊ってる)自称専門家が。
 しかしこのような手法は人間性はともかく、経済活動としては至極真っ当なやり口とも言えるんですよね。損得の舞台では得したものが正義ですから。
 力を持った不徳が正義に変容していく恐ろしさもまた、この作品の見所かもしれません。
 彼の情報に煽られた人々は暴発し、社会機能を崩壊させた挙げ句いたずらに感染を拡大させていきます。
 考えてみればインターネットは、自分だけ安全な場に身を潜めつつも影響力を発揮するのには最適なツールなんですよね。

 またこれら両極とは異なり、職業倫理と温情の板挟みになる登場人物もいて、この辺りの配置とさじ加減は見事。

 人の手で制御できないパンデミックと、それが引き起こす人災を手堅く描きながら、神ならぬ人の判断を淡々と説いた、その淡々ぶりが光る良作だと思いました。

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